VSL3-Eとは
1978年にローライからフォクトレンダーブランドで発表されたQBMマウントのカメラで、同社のSL35-Eとは外装だけが違う姉妹機です。各種のアクセサリーも共用できるようです。ローライは、フォクトレンダーを吸収したツァイスイコンがカメラ製造から撤退した後に、フォクトレンダーブランドの使用権を獲得していろいろなカメラを発売していましたが、そのローライも1981年に一度破産し、フォクトレンダーブランドを手放しています。
主要スペックは次の通りです。
・縦走りメタルフォーカルプレーンシャッター、分割巻き上げ可能
・電子制御絞り優先式AE 1/1000〜16(マニュアル時も)
・電源: 4SR44タイプ
・フィルム感度設定範囲: ASA25〜6400
・ワインダー、モータードライブ装着可
・バッテリーチェック機能、セルフタイマー(10秒)など
巻き上げレバーの軸とシャッターダイヤルの間にレリーズケーブル取付部を兼ねたレリーズロックがあります。この部品をメインスイッチと表現している資料がありますが、トップカバーを外して構造を見たところでは、単に機械的にレリーズボタンの押下を規制しているだけのようなので、レリーズロックと呼ぶ方が適切ではないかと考えます。
このレバーの先が正面を向いているときがアンロック状態、巻き戻しレバー側に倒すとロック状態になりますが、バッグの中に押し込んだり、首から下げて歩いていたりしているとロック状態になっていることがあります。逆に、コニカのFT-1などは知らないうちに電源がONになっていたりするので困ります。
シャッターダイヤルと同軸にレリーズボタンがあります。レリーズボタンとしてはかなり大きな、樹脂製の部品ですが、おもしろいのは、ボタンをちょっと押し下げると(感覚的に1/5押し)露出計のスイッチが入り、さらに押し込むと(感覚的に半押し)AEロックし、もっと押し込むとレリーズされる、というシーケンスです。AEロックができるカメラは多いですが、いずれもあらかじめロックモードにしておくとか希望の露出でスイッチを入れるとかの操作をしなければなりません。しかし、このVSL3-Eのような構造ですと、よけいな操作は不要です。その代わり、ストロークは長くならざるを得ないですが、なかなか優れものだと思います。
それから、主要スペックにもありますように、マニュアル時も16秒までの長時間露光を選択できます。これができるのは、私の知る限りこのカメラと167MTの二台だけだと思われます。ただ、実用的に意味がどれほどあるかは疑問です。それよりも、1/1000〜16の間にクリックがなく、中間シャッター速度が選べる(ただし正確には選べない)のが新鮮ですが、これも多分あまり意味ないでしょう(^_^; (写真中)
さて、このカメラはeBayで落札したものです。巻き上げが不調で修理に出したら拒否され、その後まもなく昇天したSL35の後継として、VSL3-Eに白羽の矢を立てて探していたのですが、eBayでもけっこうな値がつくのです。なかなか落札できずにいました。そんなある日、ドイツのsellerが2台のVSL3-Eを出品しているのを見つけました。商品説明がドイツ語ですから、細かいことは(というか全然)わかりません。とりあえず安い方に入札しておきました。そしたら、そのまま落札となり、逆に不安を感じました。IDからこちらが日本人だとわかったためか、最初の連絡は英語だったのですが、その件名には"defective"の文字が。意味は「欠陥のある、不完全な」です。いやな予感は的中したわけですが、本来もっと早く感じなければいけないものです。参りました。
落札してしまったものはしょうがないので、とにかく送金してブツが来るのを待ちました。待つこと二ヶ月、ようやく届いたVSL3-Eは、トップカバーが埃だらけで、いかにもdefectiveという感じを漂わせていましたが、物理的に破損しているわけではなさそうです。とりあえず、何がdefectiveなのか確認するため電池を入れ、シャッターを切ってみます。どうやら、露出計は生きているようです。絞りを変えるとLEDも動きます。示すシャッタースピードも良さそうです。しかし・・・ミラーアップしたままです。電気仕掛けのカメラですから、自分の手には負えないなーと思いながらレンズを外してみました。すると、ミラーが上死点(て言うのか?)まで行かずに止まっていることがわかりました。ミラーを指で上下させてみると、動きが渋い。これを何とかすれば、復活するかも?
何もしなければ何の役にも立たないわけですから、とにかく手を下すことにしました。不具合の原因はミラーの駆動力を伝えるリンクのどこかが何らかの原因で渋くなっているだけだという判断で、ミラーボックス摘出を目標に分解を始めました。上下カバーを外してエプロンの左右の貼り皮を剥がし、ねじを緩めましたが思うように行きません。次にあてもなくマウント部分を分解し始めたところ、レンズの絞り値を電気信号に変える部分が外れ、その奥にミラー上下のリンクがあるのが見えました。内心「やったー」と叫びながら、グリスをレミントンオイルで薄めたものを注射器に吸わせ、クサいと思われる部分に塗布し、どきどきしながらレリーズしてみます。最初のレリーズでは全然変わらず、ミラーアップし切らない。やっぱりだめかとがっくりしながら2度目のレリーズ。すると、勢い良くミラーが上がって下がります。以後は何度やってもちゃんと上下します。当たり前の姿なんだけど、「感動したっ!」
実は不具合はそれだけではありませんでした。レンズのロック爪が、どう見ても正しい形状ではないのです。SL35と比べるとその差は明らかですが、何とか装着はできてしまうので、比較対象がなかったらおかしいと思いながらもそのまま使っていたことでしょう。これには、爪を削って対応しました。
使ってみて
ボディには樹脂が多用されていますが、それなりの質感は持っていると思います。巻き上げはちょっとスムーズさに欠ける感はありますが、安っぽくはなく、レリーズしたときのミラー、シャッターの振動は好印象を持ちました。ただ、レリーズボタンを押す感触自体はあまり良くありません。また、シャッターダイヤルと感度設定ダイヤルを回すのにロック解除が必要ですが、このロックの解除/戻りに節度がなく、ダイヤルが回らなかったり回りすぎたりするのはいただけません。しかし、ジャンク寸前のボディですから、本当はもっとしっかりした操作感だったのかもしれません。
ファインダースクリーンは、イカレックスのように真ん中にマイクロプリズムの丸があり、その中を斜め二本のスプリットが走り、挟まれた部分が回転するようにずれます。その周囲はマット面なのですが、意外に明るく、見やすいファインダーです。しかし、ドイツカメラにありがちな遠視傾向?をこのカメラも持っているためか、私にはちょっと山がつかみにくいです。
(写真下)
あ、不具合はもう一つありました。それは、やたらたばこ臭いことです。顔を近づけると、煙の立ちこめる喫煙室から出てきたときの服のようなにおいがします。たばこ嫌いの私としては何とかしたいところです。
2001.12.15.
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