このカメラについて
大多数の方にとって、聞き覚えのないカメラだと思います。私も知人から譲り受けるまでは知りませんでした。クラシックカメラ専科No.49にこのカメラに関する記事がありますが、実物を見たことがなければ気にもとめないでしょう。
製造会社はCIRO CAMERAS, INC.というところで、アメリカ オハイオ州のデラウェアという都市にあったようです。CIRO
CAMERAS, INC.は、このカメラの他に6X6の二眼レフカメラを作っていたとのことですが、それ以外の情報がありません。会社の概要だけでもわかったらいいな、と思っています。
オハイオは以前私が仕事で何度も行ったことがあるところなので、そこで作られたこのカメラにはちょっとだけ思い入れがあります。
インターネットでこのカメラを検索した範囲では、GRAFLEXの販売網に乗ったあとのモデルがヒットしますが、それらを見るとCiro
35には意外に多くのバリエーションがあったようです。レンズがWOLLENSAK ANASTIGMATのほかGRAFTARとか、WOLLENSAKでも開放値が2.8〜4.5と種類があったり、シャッターがAlphaxとかRADAXとか、最高速度が1/150のものから1/500のものまであるといった具合です。手許のカメラにはGRAFLEXという刻印の代わりに"CIRO
CAMERAS, INC."と刻まれていたり、シャッターがAlphaxの最高速1/150のもので、レンズもWOLLENSAK
ANASTIGMAT 50MM f/4.5であることから、GRAFLEXの販売網に乗る前の、最廉価版に当たるモデルではないかと思います。
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レンズはWOLLENSAK ANASTIGMAT 50MM f/4.5、シャッターはAlphaxというエバーセット式で、何度でも露光ができてしまう。 |
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巻き上げはボタンを押してから巻き上げノブを矢印の方向に回す。1コマ分巻き上げると自動的に止まる。 |
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Ciro35の距離計窓を覗くとこうなっている。上下がそろうように、正面向かって右にあるフォーカシングレバーを動かす。 |
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トップカバー背面右にある、メーカーの刻印。 |
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ちょっと見にくいが、背面の貼り革に押された「Ciro35」という文字が逆さまになっている。 |
このカメラの特徴を一言で言えば、「いかにもアメリカ的」という感じでしょうか。今まで手にしてきたボルシー、マーキュリー、アーガスなどと共通するものがあります。特にボルシーB2とはシャッター、レンズ、距離計部分などにかなり近いものが感じられます。
シャッターはボルシーB2と同様エバーセット式ですが、ボルシーB2のような多重露光防止機構はついていませんので、何かのはずみで多重露光してしまう可能性は大です。巻き止め解除は、巻き上げノブのすぐ横にあるボタンを押します。ボルシーB2のようにノブを持ち上げる方式よりかなり楽です。
フィルムの巻き取り方向はOMシリーズなどと同じ逆巻きですから注意してください。カウンターは順算式です。巻き上げる時は巻き止め解除ボタンを押して、巻き上げノブを回します。1コマ分巻き上げると、自動的に止まります。巻き戻す時は巻き上げノブを持ち上げます。すると、フィルムの弾力が残っているうちは、ゼンマイがはじけるように「じゃっ!」という音とともにフィルムが軸から外れますので、あとは巻き戻しノブを回すだけでOKです。何日も放置したために巻き癖がついてしまった場合は、巻き上げノブを持ち上げたまま巻き戻しノブを回す必要があります。
そして、ボルシーB2とよく似た連動距離計がついています。ボルシーと違うのは上下の像の間に枠があって完全に分かれてしまっているので、ピント合わせはちょっとやりにくい場合があります。
裏蓋の貼り革に「Ciro35」という押し印があるのですが、どういう訳か天地が逆になっています。剥がれてしまったものを貼り直す時に逆さに貼ってしまったのか、もともとこういう仕様だったのか、あるいは間違えて逆さのまま出荷してしまったのか、可能性はいくつかあります。しかし、きれいに貼ってあるところを見ると、見栄えをあまり気にしないアメリカ人のユーザーが貼り直したとは思えないので、出荷時点でこうなっていたのだろうと推測します。
使ってみて
●手許の個体は黒塗りですが、塗装の状態はけっこういいので置物にもよいかもしれません。お世辞にも質感が高いとは言えないのですが、そこがアメリカのカメラらしいところでしょう。
●レンズ鏡胴が正面向かって右側にシフトしていて、右手でのホールド感は意外にも良好ですが、その位置からのレリーズレバー操作はかなり無理があります。普通のカメラの位置にレリーズボタンがあればよかったのですが、シャッターとボディ側が全く連動していないこのカメラには望むべくもありません。
●シャッターは上述の通りエバーセット式という非常に簡素なものですが、このシャッターがこのカメラの最大の弱点になっていると思います。とにかくぶれやすいのです。最高速が1/150秒ということもあいまって、36枚撮りフィルムを一本使っても、ぶれずに撮れている写真は2枚くらいしかありません。三脚を使う、カメラを持った手と違うほうの手でレリーズケーブルを押す、などをやればブレはかなり防げると思いますが、そこまでする気にはなれません。ぶれずに撮れれば、近景はそれなりに、遠景はこんなもんかという感じの写真が撮れます。
写りは
正直なところ、よく写るレンズとは言えないと思います。色は比較的好ましい出方をしますが、ボケ方はちょっと変だし、色収差みたいなものは感じられるし。しかし、それが私の中ではWOLLENSAKらしさという解釈になっていまして、嫌いではありません。このカメラの写りを見てからENLARGING
RAPTARなんかに手を出すようになったのですから。ただ、あちらは期待に反してこのレンズよりはまともに写っていましたね。
そんなわけで、このカメラ自身もレンズも嫌いじゃないんですけど、とにかくブレ写真を量産する欠点のため、今後も押入の隅を暖め続けることになるでしょう。
2003.06.11.
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